わが家は「お酒の飲める美術館」|ミニマリストの地震対策キッチン

- とりかい美術館さん(40歳女性/館長兼経理)
- 田舎の駅近新築マンション(2LDK/60平米)/ご本人とリクガメ1匹
- クリナップのシステムキッチン/ペニンシュラI型(約230㎝幅)
※2021年12月時点の情報です
効率とアートを組み合わせた美しい空間|インスタレーションミニマリスト

人はどのような生活観念を持ち暮らしているのか?
その答えはズバリ、生活感が出やすいキッチンにあり!
十人十色な住人さんの「生き方」や「趣味趣向」を、家で一番生活感が出るであろうキッチンからノゾキミさせてもらおう!
という好奇心からスタートした「台所拝見」。
いきなりですが、皆さんは「インスタレーション」という言葉をご存じでしょうか?現代美術の表現で、場所や空間を作品として体験させる芸術手法とされています。
そして今回の主人公は、ご自宅をインスタレーション作品と考え「お酒の飲める美術館」と銘打ち、「常設展」された美しいものに囲まれて暮らす、ミニマリストのとりかい美術館さんです。
──インスタレーションに興味を持たれたきっかけを教えてください。
とりかい美術館さん:「私の部屋づくりに似てるな」と思ったことがきっかけです。もともと、厳選した家具や照明・器たちをアート作品と同じように扱い、我が家を美術館にしたいという思いがありました。

手法を知ってからお家にアウトプットされたのでは無く、もともとの美的感覚がそうだったってことなんですね。ステキすぎる。
テーマは「地震対策のキッチン」


とりかい美術館さん:ダイニング側をバーカウンターにして、調理中の私とお客さまの対話の場に。リビング側はダイニングにして、食事とくつろぎの場所に。調理の際は最新の洋楽をエンドレスで、食事の際は落ち着いたカフェミュージックやバーミュージックを流して楽しんでいます。基本的にカウンターや棚上には何も置かず、必要に応じて出し、使い終わったら元の場所へ戻すスタイルですが、本当は、沢山の素敵なものに囲まれたキッチンが大好きです。お皿を積み上げたり飾り棚にお気に入りのアイテムを並べた「見せる収納」に憧れているので、インスタでお写真を見て毎晩うっとりしています。
──憧れの「見せる収納」を活用しない理由はありますか?
とりかい美術館さん:私は地震をとても恐れているので、「やらない」というより「やれない」のです。日本のどこかで地震があるたびに怯え、対策を講じています。こちらで久しぶりに強い地震があった時は、引っ掛けていたお玉や鍋たちが壁にぶつかりカンカンと鳴り出してしまい、地震の怖さがより一層際立ちました。それがきっかけで引っ掛け収納は止めて、引出しの中に収納するように。
「高層階だと食器棚が揺れで開いて、お皿が手裏剣のように飛び出した」と聞いた時は、開き扉の取っ手を結束バンドで毎回留め、ガラス扉の内側にふきんを当てて。その後、そもそも論で「背の高い棚は転倒の心配がある」と思い、現在使っている腰高引き戸の食器棚に買い替え。毎日の結束バンド留めから解放されました。
私が住んでいるのは「〇年以内に〇%の確率で地震が来る」と20年以上前から言われている地域。しかし自然災害は、どこに住んでいようがどれだけ備えていようが自らの力で避けられるものではありません。だからこそ、物が倒れてこない・落ちてこない・飛び散らない環境を作ることで、被災時の物的・心理的被害を最小限に抑えて少しでも早く元の生活に戻れるのではと考えています。
私はとにかく「非日常」が苦手で、毎日同じルーティーンでのんびり暮らしたいと強く願っています。もちろん皆さん同じだと思いますが、地震を恐れる私にとって、おそらくそれは桁違いの願望。「天災などで日常生活がおびやかされたとき、少しでもストレスを軽減できるように」と準備した結果が、このキッチンなのです。
──食料・飲料水などの備蓄はどうされていますか?
とりかい美術館さん:マンションは停電があると水が止まってしまうので、2Lのペットボトル飲用水を12本ローリングストックしています。食料に関してはお米が常にあるので、カセットコンロさえあればご飯は炊けるかなと考えて、現時点でそこまで色んなものを備蓄はしていないです。
お気に入りポイント:オイルガードを外してスッキリ


とりかい美術館さん:お気に入りは、オイルガードを取り外してスッキリしたIHと壁の間のスペースです。内覧会ですでにモヤモヤしていたのですが、当時の私はIH未経験。「こんなに狭い隙間にオイルガードを付けるってことは、めちゃくちゃ油が飛ぶのかも?」と思い、その場で外してもらうのは見送っていました。
そして入居後に、やはりいらないとはっきり分かったので、四苦八苦しつつ取り外しました。跡に出来た穴はパテで埋めて、上からマスキングテープを貼っただけです。いまでは、やかんや鍋の一時置き場として活用中。大多数のかたは買い足して便利にするのでしょうが、私の場合は少しずつ削ぎ落として使い易くしているのです。


どうしてる?気になるキッチンのアレコレ
台所図鑑の読者さんから「見たい!」というリクエストが多い収納と照明についても伺いました。
キッチン収納


とりかい美術館さん:キッチンの一等地にある食洗機。便利だとは思いますが、食器やグラスは食洗機非対応の作家ものが多いので、入居して1度も使わず。せっかくの標準装備だけど使わない物をそのままにしておくことが勿体なくて、食洗機丸ごと収納に変えてしまいました。使われずくすぶっていたスペースを、食器洗いグッズやゴミ袋の収納場所として活用出来て大満足です。
私の場合、かご部分を外しポリカプラダンを敷いて底を平らにしたあと、サイズに合った収納ケースを入れただけ。作業の前はブレーカーを落とすことも忘れずに。ただ、食洗機の下には排水管があり、封水(虫の侵入やにおいを防ぐトラップ)として排水穴に水を溜める必要があるので、食品などの収納には不向きだと思います。
備え付けのスペースはケース類を使わない「置くだけ収納」がほとんど。ものが少ないと「収納のための収納」が不要です。





食洗機に限らず、排水管に溜めておくべき水が蒸発すると、家と下水管が直結状態に。下水臭がしたり小さな虫が湧いてくる可能性があるのです。
「入居以来一度も使ってない」とか「乾燥機能しか使ってない」ってかたは要注意。
キッチン照明


とりかい美術館さん:当初、カウンター上は暖色のペンダントライトに変更する予定でしたが、料理する時は手元が明るい方が見やすいと思ったので、標準仕様である昼白色ダウンライトのままにしています。その代わりダイニングの照明は、言わずと知れた名作・永遠の憧れルイスポールセンPH 5を。


とりかい美術館さん:バーカウンター側には、MVOS (ミーシャ・ヴォス)のHeavy Guy chandelier (ヘビー・ガイ・シャンデリア)を。とにかく見た目が好き。5つの電球と5本のコードと5本の針金で描く曲線美。洗練されたシンプルさなのに、ちゃんとシャンデリアが感ある。灯した時に天井に現れる梅花模様に心奪われます。



電球・アーム・配線コードだけで作られた、まさに「機能美」な逸品。5つの電球は、ステンレス製のアームにより空中で支えられています。
重力を借りた、そして重力によって完成する美しいシャンデリア!


お気に入りキッチンアイテム、教えてください
少し視点を変えて。
とりかい美術館さんの愛用品から、実際どのようにキッチンを使っているかノゾキミさせてもらいましょう。
KOVEA CUBE(コベアキューブ)


愛用しているやかんが陶器製なので、カセットコンロは必須。置くだけで絵になるデザインが決め手で購入しました。お湯を沸かすのはもちろん、ご飯も炊いています。やかんと違い鍋はIH対応だけど、なんとなく直火で炊いた方がいい気がして。
正直、炊飯器と直火で生じる味の差なんて分かっていません!炊き終われば即冷凍だし、食べる時はほぼ雑炊だし。けっきょく「ご飯を直火で炊く」のをイベントとして楽しんでいるのでしょうね。
SCOPE(スコープ)のパントリー角


その日の気分やお酒の種類によって変えたいのでグラスが多く、専用の棚として購入しました。おかもちのように少し持ち上げる独特の開け方もお気に入りポイントのひとつ。丁寧な動作が気持ち良く、いつもしあわせな気持ちになるのです。
「ご来館」された客人には、何よりも先にお酒を飲むグラスを選んでもらいます。席に着く前に聞くので、「えっ?なんでもいいよ?」と驚くのですが、グラスによってお酒の味は変わるし気分も上がるので半ば強制としています(笑)
MOHEIM(モヘイム)のトローリーワゴン


どうしてもゴチャゴチャしがちなお酒とお茶グッズをまとめて置いています。
バーカウンターらしくズラーっとお酒を並べれば、お洒落ではあるけど掃除の邪魔になる。どうしようか悩んでいた時、図書館でなんとなく見たインテリア雑誌でサービングワゴンにお酒を沢山乗せてる写真が。「これだ!」とひらめき、ありとあらゆるワゴン類を検索し見付けたのがモヘイム製でした。
一箇所にまとめると掃除が楽だし、キャスターが付いているおかげで移動も簡単です。



お酒はもちろんですが、それらに合わせて作る料理も好き。準備から片付けまで、全ての時間が好きなのです。
とりかい美術館さんの台所拝見まとめ


人はどのような生活観念を持ち暮らしているのか?
その答えはズバリ、生活感が出やすいキッチンにあり!
十人十色な住人さんの「生き方」や「趣味趣向」を、家で一番生活感が出るであろうキッチンからノゾキミさせてもらおう!
という好奇心からスタートした「台所拝見」。
今回のとりかい美術館’sキッチンはいかがでしたか?お部屋・家具・人・家事の時間、全てがインスタレーションの一部と考えると、哲学の世界に飛び込めそう。おのずと所作も美しくなりそうなお台所でした。



最後に自分語りぶち込みます。
インプロやノイズ音楽をやってる友人の公開録音に行った時、「真ん中で聴くと違う世界になるよ」って言われて、ソファーの真ん中に移動して聴いてみたら、本当にその通りで。
演奏されている音楽だけでなく、空間・観客・椅子・息遣いとかも含めた芸術だって気付いてむちゃくちゃ興奮したのよね。
バチっとハマった時の感覚、すごかった。
当時はインスタレーションって言葉すら知らなかったけど、とりかい美術館さんに取材させていただいたおかげで、あの時の感動に答えをもらった気分です。



「サウンド・インスタレーション」ってやつやな。



とりかい美術館さんのインスタアカウントでは、ミニマムな生活をセンス溢れる文章で紹介。お引越しエピソードや「永久所蔵品」の数々も必見です。
とりかいワールドが気になるかたは是非チェックしてください。
とりかい美術館さん、ありがとうございました!
ABOUT:とりかい美術館


お酒の飲める美術館。
とあるマンションの一室で。
完全予約制。料金一律。
こだわりの家具や照明などの永久所蔵品を常設展示。
そんなインスタレーションインテリアの中ですべてを忘れておいしいお酒とおいしいごはんに舌鼓を打ちませんか。
メニューはほぼない。
旬な食材(季節だったり自分の中でだったり)を使ったおいしいなにかを作ります。
席に着いたらまずはお好きなグラスをお選び頂き、乾杯☆
そこから素敵な時間の始まり始まり〜。
all photo by とりかい美術館